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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)590号 判決

岡山県浅口郡富田村大字八島三五三三番地

上告人

難波易郎

同村大字道越一〇八九番地

上告人

村川敏夫

右両名訴訟代理人弁護士

佐々木祿郎

岡山市上伊福

岡山県庁内

被上告人

岡山県選挙管理委員会

右代表者委員長

軸原憲一

右当事者間の裁決取消請求事件について、昭和二六年七月一六日広島高等裁判所が言渡した判決に対し、上告人から全部破毀を求める旨の申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する

上告費用は上告人等の負担とする

理由

上告代理人佐々木祿郎の上告理由は別紙のとおりである。

上告理由第一点について。

上告人は原審において、昭和二五年五月一四日施行された岡山県浅口郡富田村村長解職及同村議会解散賛否投票の劾力に関し被上告人のした訴願裁決の取消を求めたのであるが、原判決の確定するところによれば同村村長及同村議会議員はすでに昭和二六年四月二三日改選せられているのであるから、原判決が上告人の請求について実体上の利益がないとし、これを棄却したのは正当である。かりに所論のように原審が実体上の審理を尽していたとしても、請求の利益が失われた後においては実体上の判断をすべきものではないから論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は本訴においては当事者の負担する訴訟費用も莫大であるから当事者としては実体上の判断を受ける利益があるというのであるが所論のような訴訟費用を当事者のいずれが負担するかは請求に関する実体上の利益ではない。訴訟費用の負担のために実体上の判断をしなければならないというものではないから論旨は理由がない。

以上説明のとおり本件上告は理由がないからこれを棄却すべきものとし民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二六年(オ)第五九〇号

上告人 難波易郎

外一名

被上告人 岡山県選挙管理委員会

上告代理人弁護士佐々木祿郎の上告理由

第一点 原判決は理由不備の違法がある。

本件は昭和二十五年九月二十七日原審に対し訴状を提出し爾来翌昭和二十六年七月四日結審迄口頭弁論を度々開き同年七月十六日原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。との判決言渡を為したるものであるが、其の判決の理由に依れば昭和二十六年四月二十三日富田村長及同議会議員の改選が行われ其の為に請求の実体上の利益が無いので之を棄却すると謂うにある。昭和二十六年四月二十三日の所謂地方選挙は全国的なものであつて顕著な事実である事は勿論、原審に於いては既に富田村長及同村議会議員の任期満了の期日が明らかになつて居た事は調書によつて認めらるるところである。

然るに原審に於いては右改選期日後も度々口頭弁論を開き、訴の実体上の審理を為して来たのであつて、今更判決に於いて、実体上の利益無しとする事は判断に苦しむところである。

若し原審の云うが如くであれば訴訟の迅速化の要請に背くものと謂わざるを得ない。

原審の結審に於て既に実体上の判断を為すべき主張及立証が夫々原、被告より為し尽くされ居り実体上の判決を為すに熟くしている点を鑑みれば、よろしく裁決取消の実質的判断を判決理由に明記すべきである。然るに不拘原審は右に就き何等の判断を為さざるは判決理由に欠くるところあり、理由不備の誹を免れない。

第二点 原判決は法令の違反をして居る。

原判決理由に依れば昭和二十六年四月二十三日富田村長及同村議会議員の改選が行われた故改選前の富田村長解職及同村議会解散請求の賛否投票の効力に関する本件裁決の取消を求める原告等の請求は、右改選の結果何等実体上の利益がなくなつたので権利保護の要件を欠くものとしてこれを棄却すべきであると為して居るが右は訴提起の利益と当事者が判決を受けるの利益とを混同して居るものである。訴提起の当時に於て、既に改選が行われて居る場合に於ては、訴提起の利益も判決を受けるの利益も何れも有せざるものである事は当然であるが、一度訴を提起し然も本件の如く原審が現地出張の上数日に亘り、数百名の証人を喚問したる本件に付ては其の訴訟費用も莫大になる事は明瞭であり、訴訟当事者としては其の訴訟費用の負担について重大なる利害関係を有するものであり、判決を受けるの利益は厳として存するものと言わなければならない。(民事訴訟法第九〇条参照)

然るに原審は想を此処に致さず、漠然と実体上の利益無きものとして却下し、訴訟費用を全部原告側に負担せしめた事は法令の解釈を誤まつた違法の判決と云うべきである。

以上

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